272 研究領域の現状
鈴 木 敏 泰(准教授) (1998 年 1 月 1 日着任)
A -1) 専門領域:有機合成化学
A -2) 研究課題:
a) 曲面グラフェン分子の開発(芳香族ベルト・サドル) b) 電界効果トランジスタのための有機半導体の開発
A -3) 研究活動の概略と主な成果
a) 最近,ナノフープと呼ばれる [n] シクロパラフェニレン(nCPP)やその誘導体が新たな高歪み芳香族化合物として 注目され,活発に研究されている。カルバゾール誘導体は,有機半導体としてのホール輸送性および光導電性の点 で興味深い。このため,今回カルバゾールの C P P 構造への導入を行い,テトラシクロ(2,7- カルバゾール)の 9- メ チル体(4C MeC z)およびフェニル体(4C PhC z)の合成を完了した。まず,2,7- ジブロモカルバゾールのリチオ化と, それに続く塩化トリメチルスズとのトランスメタル化によってカルバゾール・スズ体を得た。P t( nbd) C l2との反応に より白金錯体を与え,dppf を加えて配位子交換を行った。臭素を用いた還元的脱離反応によって,4C M eC z を 10%, 4C P hC z を 10% の収率で単離した。カルバゾールナノフープの
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H N M R では,環内に位置する水素が直鎖状のオリ ゴマーと比べ,1 ppm 以上遮蔽されていることが分かった。この原因を探るため,GIA O 法による NMR 計算を行った。 30×30×30 Å の空間を 0.5 Å 間隔のグリッドに分け,すべての点における nucleus-independent chemical shift(NICS)
値を求めた。これを N I C S g ri d 法(2D)および i so- chemi cal - shi el di ng surf ace 法(3D)により,等高線図または isosurface で可視化した。ナノフープの環内はジアトロピック,環外はパラトロピックときれいに別れており,このた めに水素原子の遮蔽が起こることがわかった。これは,C PP の各ベンゼン環がナノフープの中心に向かっているため, ベンゼンの環電流によるパラトロピックの成分はナノフープの接線方向に伸びる。このため,環内に入ることができ るのは,環の中心方向に伸びるジアトロピックの成分だけとなる。次に,各ベンゼン環のローカル環電流とナノフー プ全体を巡るグローバル環電流の分離を試みた。NIC Sxx+NIC Syyは主にローカル π 環電流,NIC Szzは主にグローバ ル π 環電流とローカル σ 成分に由来する。C P P のベンゼン環の一つの 1,4 位に水素原子 2 個を加えることにより, グローバル環電流の流れを遮断する。C PP と C PPH2の NIC Szzの差を取ることにより,グローバル環電流に由来する NMR 遮蔽の様子を描き出すことができた。その結果,4C PP から 7C PP ではパラトロピックのグローバル環電流が生 じ,8C P P 以上ではグローバル環電流は発生しないことが分かった。これにより,8C P P 以上の C P P では環が小さい ほど
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H NMR の遮蔽が大きく,7C PP 以下の C PP では逆の傾向になる理由が明らかになった。
B -1) 学術論文
T. IWAMOTO, E. KAYAHARA, N. YASUDA, T. SUZUKI and S. YAMAGO, “Synthesis, Characterization, and Properties of [4]Cyclo-2,7-pyrenylene: Effects of Cyclic Structure on the Electronic Properties of Pyrene Oligomers,” Angew. Chem., Int. Ed. 53, 6430–6434 (2014).
研究領域の現状 273 B -10) 競争的資金
科研費若手研究 (B), 「フッ素化ペンタセン類の合成と有機薄膜素子への応用」, 阪元洋一 (2003年 –2004年 ). 科研費若手研究 (B), 「チューブ状多環芳香族炭化水素の合成」, 阪元洋一 (2006年 –2007年 ).
C ) 研究活動の課題と展望
京大化研・山子教授を代表者とするC R E ST「超分子化学的アプローチによる環状π 共役分子の創製とその機能」に共同研 究者として参加している(2016年3月まで)。有機 E L や有機トランジスタの材料開発における経験を生かしていきたい。こ れまで,有機デバイスに使われているπ 共役分子は直鎖型のものである。これが環化することによって,どのような固体構 造を取るのか興味深い。アモルファスになるのか,結晶になるのか,それとも分子構造により自由に制御できるのか,その点 を見極めていきたい。我々はここ数年,短いカーボンナノチューブである芳香族ベルトの有機合成に取り組んでいる。これは, 今回の C R E ST のテーマとも合致するので,今後ともその完成を目指していきたいと思う。